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2010
03.25

くるまを所有しない理由

Category: 未分類
一五九 哀する

彼は、コホンと咳払いして「いくよ」とエンジンをかけました。
それからしばらく呟いていました。
「そうか、そうなのか」とダッシュボードを撫でたりもしました。
僕の方を向いて「こいつの名前は何ていうの?」と聞きました。
こいつとはこの車のことです。
僕は首を横に振りました。
「そう」
彼はそっけなく、うなづき、そしてまたぶつぶつ言っていました。
「17万キロ走っている割にはいい感じだね。小まめに手入れしてある。ただし・・・」
彼はもったいぶりました。
「この車は君に対してたいそう不満を持ってるようだ」
僕の眉間にしわが寄っていたのでしょう。
彼は僕の真似をして、笑いました。
そしてすぐに真顔になりました。
「あいがない・・・」
無表情でした。
「君はこの車に対して、あいする、ということをしない。それが不満の原因らしい」
彼は僕の意見を待っていませんでした。
「そろそろ行こうか。走りたいんだそうだ」
彼がアクセルを踏むと、僕の車が走り出しました。
ごく普通に走りだしました。
その後も特に変わった様子はありませんでした。
何の変哲もなく加速し、何の変哲もなく信号で止まりました。
彼は身の上話をしました。
そしてときどき、僕の車を代弁しているようでした。
「君と一緒に全力で走りたいって言っている」
僕はスピードメーターいっぱいとばしたことがある、と言いました。
彼は天井を右手でぽんぽん叩きました。
「全力っていうのは全速力とは違う」
彼の右手は絶えず車に触っていました。
「全力っていうのはこの車と一緒に最大限楽しむってことだ。
君はそれをしていない。
まだ知らないのかも知れないけど」
彼は鼻歌を歌いました。

彼は「車は所有したくないんだ」と言いました。
「フィフティフィフティの楽しい関係が壊れてしまうからね」



・・・つづく
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