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2010
03.23

そこに車があるから

Category: 未分類
一五八 現れる

その人は罪びとでした。

けれども彼は純粋でした。
純粋に車を盗んでいました。

鍵がかかっていても、開けることができました。
細長い針金で簡単に開けました。
エンジンもかかりました。
配線をチョチョイと簡単にかかりました。
「それは昔の話さ」
彼は、今はそんなことはしないと言っていました。
「このごろは俺が行くところにはきまって、乗ってください、という車が現れるようになった」
彼は当たり前の顔をしていました。
「なんの努力もなく車に乗れるようになったんだ。当然、キーも付いているんだよ。
僕は、有難う、と言って車に乗るだけなんだよ。実にかんたんなもんだ」
彼は車で旅をしていました。
もちろん、盗んだ車でです。
途中「あの車に乗ってみたいなあ」と思って停まると、大抵は鍵が付いているんだそうです。
そして車を乗り換え乗り換え、日本中を旅していました。

警察には何回か捕まったと言っていました。
刑務所にも一回入った、と。
けれどもやめないんだそうです。
「車の方から言ってくるんだよ。乗ってくださいって。
乗らないわけにはいかないだろ」
彼の瞳は透明でした。
彼は神々しく思えるほど、堂々としていました。
そこに山があるから登る登山家のように、そこに車があるから乗るのでした。

彼の話を聞くことができたのは、偶然、彼が僕の車に乗り込もうとしているのを見つけたからです。
僕が後ろから掴みかかろうとしたとき、彼は振り向き、そして、満面の笑みを浮かべました。
「この車の素晴らしさを体験してみたいと思わないか」
彼には嘘がありませんでした。
彼はあごで、助手席に乗れ、と言いました。
僕はあっけなく従いました。
 
・・・つづく
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