--
--.--

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2010
03.27

くるまの神様

Category: 未分類
一六〇 見合う力をつかう

「僕たちは60キロでなんて走れない。
車のおかげだよ」
「車の力を借りてばかりじゃだめなんだ。
僕たちもそれに見合う力をつかわないと」
「車といっしょに走るっていうのは、ほんとに気持ちのいいものだろ」
僕は彼の姿が透けていくような気がしました。
「車によって色んな心地佳さを味わえる。
どんな車も完璧なんだ」
彼は案外、色男でした。
笑っているようにも泣いているようにも見えました。
僕はとてもリラックスしていました。
車の中で心底くつろいでいました。
こんなのは初めだったのかもしれません。
僕は眠ってしまいました。
夢を見ました。
この車が産まれるところでした。
工場で油のにおいがしました。
工員の汗、そして笑顔もありました。

目が覚めたら、ドライブインに停まっていました。
「よく眠ってたみたいだね。君も、この車も」
彼は大きく伸びをしました。
「もう僕の仕事は終わりだ」
彼はキーを僕に手渡しました。
「新しい友達が俺を待っている」
彼は「さようなら」と僕の車に告げると、隣のランドクルーザーに当たり前のように乗り込み、そのまま行ってしまいました。

その後彼がどうなったかは知りません。

車が滑りました。壊れました。
身代わりになってくれたと思いました。手を合わせました。

新しい車がやってきました。
名前をつけました。
彼の隅から隅まで全部を感じて、いっしょに安全運転したいと思っています。

Y県安全運転作文コンクール   落選作品


スポンサーサイト
Comment:2  Trackback:0
2010
03.25

くるまを所有しない理由

Category: 未分類
一五九 哀する

彼は、コホンと咳払いして「いくよ」とエンジンをかけました。
それからしばらく呟いていました。
「そうか、そうなのか」とダッシュボードを撫でたりもしました。
僕の方を向いて「こいつの名前は何ていうの?」と聞きました。
こいつとはこの車のことです。
僕は首を横に振りました。
「そう」
彼はそっけなく、うなづき、そしてまたぶつぶつ言っていました。
「17万キロ走っている割にはいい感じだね。小まめに手入れしてある。ただし・・・」
彼はもったいぶりました。
「この車は君に対してたいそう不満を持ってるようだ」
僕の眉間にしわが寄っていたのでしょう。
彼は僕の真似をして、笑いました。
そしてすぐに真顔になりました。
「あいがない・・・」
無表情でした。
「君はこの車に対して、あいする、ということをしない。それが不満の原因らしい」
彼は僕の意見を待っていませんでした。
「そろそろ行こうか。走りたいんだそうだ」
彼がアクセルを踏むと、僕の車が走り出しました。
ごく普通に走りだしました。
その後も特に変わった様子はありませんでした。
何の変哲もなく加速し、何の変哲もなく信号で止まりました。
彼は身の上話をしました。
そしてときどき、僕の車を代弁しているようでした。
「君と一緒に全力で走りたいって言っている」
僕はスピードメーターいっぱいとばしたことがある、と言いました。
彼は天井を右手でぽんぽん叩きました。
「全力っていうのは全速力とは違う」
彼の右手は絶えず車に触っていました。
「全力っていうのはこの車と一緒に最大限楽しむってことだ。
君はそれをしていない。
まだ知らないのかも知れないけど」
彼は鼻歌を歌いました。

彼は「車は所有したくないんだ」と言いました。
「フィフティフィフティの楽しい関係が壊れてしまうからね」



・・・つづく
Comment:0  Trackback:0
2010
03.23

そこに車があるから

Category: 未分類
一五八 現れる

その人は罪びとでした。

けれども彼は純粋でした。
純粋に車を盗んでいました。

鍵がかかっていても、開けることができました。
細長い針金で簡単に開けました。
エンジンもかかりました。
配線をチョチョイと簡単にかかりました。
「それは昔の話さ」
彼は、今はそんなことはしないと言っていました。
「このごろは俺が行くところにはきまって、乗ってください、という車が現れるようになった」
彼は当たり前の顔をしていました。
「なんの努力もなく車に乗れるようになったんだ。当然、キーも付いているんだよ。
僕は、有難う、と言って車に乗るだけなんだよ。実にかんたんなもんだ」
彼は車で旅をしていました。
もちろん、盗んだ車でです。
途中「あの車に乗ってみたいなあ」と思って停まると、大抵は鍵が付いているんだそうです。
そして車を乗り換え乗り換え、日本中を旅していました。

警察には何回か捕まったと言っていました。
刑務所にも一回入った、と。
けれどもやめないんだそうです。
「車の方から言ってくるんだよ。乗ってくださいって。
乗らないわけにはいかないだろ」
彼の瞳は透明でした。
彼は神々しく思えるほど、堂々としていました。
そこに山があるから登る登山家のように、そこに車があるから乗るのでした。

彼の話を聞くことができたのは、偶然、彼が僕の車に乗り込もうとしているのを見つけたからです。
僕が後ろから掴みかかろうとしたとき、彼は振り向き、そして、満面の笑みを浮かべました。
「この車の素晴らしさを体験してみたいと思わないか」
彼には嘘がありませんでした。
彼はあごで、助手席に乗れ、と言いました。
僕はあっけなく従いました。
 
・・・つづく
Comment:0  Trackback:0
2010
03.21

命のくるま

Category: 未分類
一五七 おそろしいと思う


前を走っている車がいました。
とてもゆっくりでした。
僕は追い越しました。
簡単に追い抜けました。
けれどすぐ、その車に追い越されました。
前に鋭く割り込んできました。
そしてまた、とてもゆっくり走り始めました。

僕は腹が立ちました。
前の車から尖った音楽が洩れていました。
大きな刺青をした車でした。
そのうち蛇行を始めました。

もうすぐ山道でした。
追い抜けなくなります。
このまま後をついていくのではかないません。
僕はもう一度追い抜きました。
すきを見て、素早く抜きました。
僕はそのままアクセルを踏み込みました。

山道は大きなカーブの連続です。
僕はスピードを出したまま曲がりました。
タイヤがキキーと鳴りました。
嫌な予感がありました。
バックミラーにさっきの車が映っていました。
ぴったり後についていました。

大きなカーブにさしかかったときでした。
後の車が僕を追い越そうとしました。
山に隠れて対向車がまったく見えません。
来たら正面衝突です。
それでも後の車はセンターラインを大きく越えてきました。
そして僕と並走しはじめました。
しばらくこちらを睨みつけていました。
僕は、相手の人は死ぬのかなあと思いました。
観念しました。
前だけ見ることにしました。
やはり対抗路線は山に隠れています。
そのまま走りました。
すると、その車は爆音とともに僕を追い抜いていきました。
直後、対向車が立て続けにすれ違っていきました。
僕はブレーキをかけました。
路肩に止まりました。
しばらくボーっとしていました。

この話を店長にしました。
店長は笑みを浮かべていました。
「世の中には、車に乗ったまま死んだっていいっていう奴がいるんだよ。車に命を懸けてる奴だ。運転中に死ねれば本望だっていう奴。いるんだよ。
お前はその一人と出会ったんだ」
店長は続けました。
「お前は運がよかった。そいつのとばっちりを食わなかったからな。
巻き込まれないようにせいぜい気をつけることくらいしかできない。
結局俺たちには何も出来ないんだよ」
店長は僕の肩をポンと叩き、立ち上がりました。
「あんまり運を使わないように」

それからしばらく、僕は、車の中に命が転がっているような気分で運転していました。
何気なく走っていた道路が戦場に見えていました。
恐ろしい場所だったんだと思いました。
命懸けで運転している人たちがいる。
山道を追い抜いていった彼に、僕はちょっとだけ敬意をはらいました。


でも世の中にはもっと凄い、くるま好きな人がいました。 ・・・つづく








Comment:0  Trackback:0
2010
03.10

くるまの友 

Category: 未分類
一五六 話してみる

車が滑りました。
ポールに激突しました。
車が壊れました。
僕は無事でした。
警察の説教を受けました。
車に手を合わせました。
車にお辞儀をしました。
悲しくなりました。

新車がやってきました。
同級生のお店からきました。
お話しを聞きました。
暖気してから乗れと言われました。
今の車は性能がいいとも言われました。
車に乗りました。
新車に乗りました。
どきどきしました。

ダンボールから本を出しました。
「10万キロ走っても故障しない本」と書いてありました。
慣らし運転、のページを開きました。
「新車、一万キロまでは低速で走ること」
できない、と思いました。
「アクセルがフッと軽くなるときがある」
「もっと走る準備ができた、さあ、行こうと車が言っている」
わかると思いました。

店長は言いました。
「お前にだけ教えると」
店長は僕が変なことを話したのでそんなことを言いました。
変なことというのは僕にとっては変なことではないのですが、一般的に変かもしれない変なことです。
僕は「車の調子が悪いとき、車と話すると変わる」と言っただけです。
店長は僕の顔色をうかがってから口をひらきました。
「車の調子悪いからみてくれ、とやってくるお客さんの大半が、それで解決する」
店長は笑いました。
「お客さんの言っていることのほとんどが理解不能。わからない。何を調子悪いと言っているのか、何が気に入らないのか、全く」
僕も店長の言っていることが理解不能でした。
店長はアメリカ人のように両手を挙げて首を横に傾けました。
「例えば、変な音がするってお客さんが言う。俺には変な音に思えない。けれど一通り点検する。こっちも商売だからね。点検だけだけど」
店長は真顔になりました。
「点検がひととおり終わったあと、最後に、これだけはしなくちゃいけない、というのがある。
これでOK大丈夫って車に話すこと。そうすると大抵、うまくいく。お客さんは満足してくれるよ。
お蔭様で調子よくなりましたって」
店長の目はプロになっていました。

ぼくは車が好きな人を沢山知っています。
いろんな車に乗せてもらいました。
大型タンクローリーに乗ったときは二階から眺めているようでした。
前の車がとても小さくてチョロチョロしていました。
踏み潰したくなりました。
高級外車に乗ったときはバブルの社長になった気分でした。
人に見せびらかしたくなりました。
耕運機に乗ったときは誠実な百姓になれました。

車が好きな怖い人がいました・・・つづく


Comment:1  Trackback:0
2010
03.07

試しに一句

Category: 未分類
一五五 点

 春だなは。
 東北はまだ名残の雪降ってっけど、春だなは。
 春といえば、卒業式、別れだなあ。
 別れといえば、涙だなあ。
 涙といえば、一粒だなあ。
 一粒といえば、この句。

 夕立の一粒源氏物語  佐藤文香
 
 そしてこの句
 
 芋の露連山影を正しうす  飯田蛇笏

 さらにこの句

 知らない町の吹雪のなかは知っている  佐藤文香
 
 

一句目は俳句甲子園で最優秀賞をとった句だ。
夕立といえば夏。
源氏物語にでてくる女性たちの流した涙、その情念全部が夕立の一滴に詰まっている。
一粒で二度美味しいなんて、甘っちょろい。
全部だ、全部。

二句目、芋といえば秋。露も秋。
芋といえば里芋だ。芋煮会のある山形では十月ごろ大っきな葉っぱを広げて畑一面埋め尽くす。
葉っぱは、脂っぽくて水を玉にするのよ。だから朝、畑に行くとあちゃこちゃで葉っぱの表面に露が玉になってる。ちょっとでも風が吹くと転がる。
その露の玉に周りの山が映っている。
山っていうのはよ、この辺じゃ、神様が棲む恐ろしい場所だ。山に入って帰ってこれなかった人は何人もいる。熊に襲われた人もいっぱいいる。人がどうこうしようにも広すぎて深すぎて、手の打ちようがないのが、この辺の山なだ。
で、そんな山が、しかも連なっている山々が、可愛い芋の露の中に入っているという。しかも360度、全部の山が入っている。そのうえ、姿形だけでなく、「影」という山の中身も入っちゃってるってわけだ。さらに居住まいをきちんとしているっていうでねえか。人間がお手上げの山がよ。

三句目

冬だ。
知らない場所が吹雪に見舞われている。
そこに行ったこともなければ見たこともない。
そこに住んでいる人も言葉も分からない。
けんど吹雪の中のことなら、一点、共有体験としてズボッと理解できる。


点が生まれれば、共有できる。


で、自分のからだでこういうことをやってみたいべ。
で、俳句作るべ。
で、とりあえず、夏秋冬ときて、春がないからよ、春の句作るべってことだ。
朧、霞、薄氷、春泥、雪の果・・・・
季語を加えてよ。

んだば、俺から一句。


 梅林の真ん中にある落し穴


訳分かんねなんて言わねでけろ。俺も分かんねなだから。
でもよ、ふーっと身体が誘われるようなしみ込むような怖いような崩れるような語感や韻律は大切だべゃ。

で、もう一句。


 春昼の小指の中の鍾乳洞


まあ、難しいこと考えねで作ってみてけろ。
思いも寄らねぇ芸術的一点が出現すっかも。
Comment:0  Trackback:0
back-to-top
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。